よく皮膚科と間違えられますが、私の専門は内科です。なぜ内科なのにアトピーの診療をしているのか説明します。
2001年1月、私は高雄病院に転職しました。
高雄で訪問診療を始めることになり、往診の経験ある医師募集に応じたのがきっかけです。
実際に働くようになると、往診だけではなく、外来、病棟でも仕事をします。高雄病院では、漢方治療、アトピーの治療に力を入れていて、知らないことばかりで毎日が勉強でした。特に、当時はアトピーの患者さんがたくさん通院していて、重症患者さんの入院も毎週ありました。
一緒に働いていた医師の中には、「漢方の勉強がしたい」「子供は苦手」という人が多く、私は、妻がアトピーだったり、子供が小さかったりしたこともあり、自然と子供のアトピー担当ということになり、理事長の江部康二先生に診察、処方、指導の方法を一から教わりました。
高雄病院は漢方の病院で、皮膚科の先生もいましたが、そこで働く医師の大部分は内科医でした。
1980年代には、「アトピーの治療にステロイド軟こうは使わない方がいい」とする世間の風潮があり、高雄でも漢方煎じ薬でアトピーを治療する方針でしたが、漢方だけでは、なかなか皮膚炎が良くならず、これではいけないということで、1989年ごろからステロイド軟こうも使うようになってきたと聞きました。
江部康二先生の元々の専門は呼吸器内科で、喘息治療にはステロイドを使うのに、なぜ「アトピーには使わない方がいい」のか疑問に思っていたそうです。
欧米では1970年代終わり頃までにステロイド吸入が気管支喘息治療の主流になり、日本でも90年代にはステロイド吸入療法が治療の中心となって、喘息で死亡する患者さんが減少していきました。
アトピーとは違って、「喘息の治療にステロイド吸入はしない方が良い」と主張する医師は、呼吸器内科の世界には、ほとんどいなかったのです。
1990年代になると、某ニュースや「ステロイド拒否」本の影響で、「脱ステ」して全身悪化した患者さんが毎週高雄病院に入院するようになりました。
気管支の炎症である気管支喘息の治療にステロイドの吸入を行う。同じように、皮膚の炎症であるアトピー性皮膚炎にもステロイド軟こうを外用する。全身重症アトピーの患者さんが、高雄に入院してステロイド軟こう治療を受けると、1週間後にはすっかり良くなっていきました。
「中肉中背の男性成人患者さんの全身に、軟こうをぬるとすると、看護師さんが上手にぬってだいたい1回10g、1日2回で20g、1週間で140gぐらいは必要になるね」
ステロイドを外用する量について、江部先生から教えてもらいました。ステロイド外用量の目安、FTU(Finger Tip Unit)という考え方がイギリスで初めて発表されたのが1991~92年頃でしたから、高雄病院の「しっかりステロイドをぬる」治療は、日本におけるFTU治療のはしりと言って良いと思います。
(「ドクター江部のアトピー学校(1)心と体編」参照)
高雄病院でたくさんの患者さんを治療した経験を重ねることで、「アトピーは正しくステロイドを外用すると良くなる。逆に、軟こうの塗り方が間違っていたり、量が少ないと良くならない」ということが実感できました。
アトピー性皮膚炎診療ガイドライン(2021)、「投与方法①外用量」の項目には、こう書かれています。
必要十分な量を外用することが重要である。
finger tip unit(FTU)
しかし、「アトピーが良くならない」とまつもとクリニックに来院される患者さんのお薬手帳を見ると、これまでの皮膚科で処方されたステロイド軟こうの量が、とても少ないことが多々あります。これでは「必要十分な量」は外用出来ません。
教科書やガイドラインに「FTU」と書いてあるのに、何でやろ、、、
いつも不思議に感じていましたが、この文章を書くために頭の中を整理していて、気づくことがありました。それは、、
入院患者さんを受け持ち、毎日全身に軟こうをぬって、実際に一週間ぐらいでしっかり良くなった治療経験を何人も重ねないと、軟こう治療のポイント、必要な軟こうの量、軟こう塗り替えの判断はマスター出来ないのではないか。
大学病院の皮膚科には、アトピー性皮膚炎だけではなく、皮膚がんや膠原病などの患者さんもたくさん入院しているので、アトピーの軟こう治療だけをを何十人も経験するのは難しいのかもしれません。
ガイドラインに「FTU」と書いてあっても、実際の診療では実行できていない理由がわかった気がしました。
私は、専門が内科だったので高雄病院で働く機会を持つことができ、「正しいステロイド軟こう治療」を習得することが出来ました。このスキルを、軟こう治療が正しく行われていないために良くならず困っている患者さんに役立てたいと思い、2009年から、まつもとクリニックで診療をしています。
「まつもとクリニックのアトピー・乳児湿疹治療」については、下のリンクで詳しく説明しています。
注1)軟こうを使わない漢方のみの治療は行っていません。
注2)軟こうを使わない、アトピーの『根本治療』なるものも行っていません。
そもそも、アトピーの『根本治療』と言っている治療法に科学的なエビデンスはありません。